最近よく見聞きする「toxic positivity」とは?

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最近、メンタルヘルス関係の記事などで「toxic positivity」という言葉をよく目にするようになりました。

「positivity」(ポジティブであること)が「toxic」(有毒、有害)とはこれいかに? ということで、今回はこの言葉の意味を解説したいと思います。

「toxic positiviy」の定義

「toxic positivity」は、直訳すると「有害なポジティブさ」。

通常「positive」というのは良い意味で使われますが、それが「toxic」であるというのは、どういうことでしょうか。

いくつかの欧米のサイトから定義を引用してみます。

The phrase “toxic positivity” refers to the concept that keeping positive, and keeping positive only, is the right way to live your life. It means only focusing on positive things and rejecting anything that may trigger negative emotions.

Psychology Today

(toxic positivityとは、常にポジティブな状態でい続けることこそ正しい生き方だとする考え方のこと。つまり、ポジティブな物事のみに目を向け、ネガティブな感情を引き起こしうる物事は拒絶すること。)

We define toxic positivity as the excessive and ineffective overgeneralization of a happy, optimistic state across all situations. The process of toxic positivity results in the denial, minimization, and invalidation of the authentic human emotional experience.

The Psychology Group

(私たちはtoxic positivityを「あらゆる状況において、幸せで楽観的な状態を過剰かつ無駄に一般化すること」と定義しています。toxic positivityの過程は、人間のありのままの感情を否定、軽視、無効化することにつながります。)

The phrase toxic positivity is the culture of portraying yourself as being happy no matter what. You’re basically switched off to anything which might be viewed as negative. It’s also the idea of encouraging people to always see the bright side, and not open up about anything bad.

The Tab

(toxic positivityとは、何があろうと自分は幸せだと表現する慣習のこと。ネガティブとみなされうる物事には基本的に目を向けないこと。また、他人に対して、嫌なことを打ち明けたりせず常に明るい面を見るように励ますこと。)

つまり、自分や他人のありのままの感情を否定して、常に明るくポジティブでいようとしたり、そうあることを人に求めたりすることを「toxic positivity」というのですね。

「toxic positivity」の例

「toxic positivity」自体はそれほど新しい言葉ではないようですが、最近になってよく見聞きするようになりました。その背景として、SNSの普及と、新型コロナウイルスによるロックダウンがあるようです。

「toxic positivity」という言葉は、主に以下のような例を説明するのに使われています。

・FacebookやInstagramなどのSNSを見ているとみんなが幸せそうに見えて、そうではない自分に落ち込む。

・不安や悲しみを抱えているのに、人前やSNS上では明るくポジティブな自分を演出し、本当の自分との乖離にさらにストレスを感じてしまう。

・新型コロナウイルスによるロックダウン中に「この機会に小説を書いたり、新しい言語を学んだり、ダイエットしたりしよう」といった前向きなメッセージに触れて、前向きになれない自分に後ろめたさや自己嫌悪を覚える。

・逆境の中にある人や悩みを打ち明けてくれた人に対して、ポジティブ思考を促すことで、相手の気持ちを否定してしまう。

「ポジティブ思考=善」は欧米的発想?

「常に明るくポジティブでいよう!」というのは、元々欧米的な感覚だと思います。実際、「ポジティブ・シンキング」や「引き寄せの法則」といった概念は、アメリカから導入されたものです。

日本的な感覚では、「ポジティブさの押しつけは良くない」とか「ありのままの感情を受け入れることが大事」といった考え方は、今さら言うまでもない当然のことのように思えます。

また、日本では、いわゆる「ネクラ」や今で言う「陰キャ」と呼ばれる人たちも、ある程度受け入れられる土壌があります。そういう筆者もどちらかといえばネクラなタイプなので、誰かが「私、ネクラなんで…」と言ったり書いたりしていると、むしろ親しみを感じます。

ところが欧米では、明るくポジティブでいなければならないという雰囲気がなんとなく漂っています。自分のことを、たとえば「内向的」と表現する人はいても、「性格が暗い」と表明するような人はあまりいません(欧米で生活している方などで、「いや、いるよ」というご意見があれば、ご指摘ください)。

実際、英語で誰かを励ましたりなぐさめたりするときによく使われる定番フレーズは大体こんな感じです。

 Just be positive! (ポジティブでいようよ!)
 Don’t be so negative! (そんなにネガティブにならないで!)
 Good vibes only! (いい感じだけでいこう!)※SNSでよく使われる表現
 You’ll get over it! (あなたなら乗り越えられるよ!)
 Always look at the bright side! (物事の良い面を見ようよ!)

どれも日本語にすると少しぎこちないというか、こそばゆいというか……。こういうところからも、ポジティブ思考って英語的な発想なんだなと気付かされます。

昨今のSNSの普及やコロナウイルスの影響でポジティブ圧力に苦しんでいる人が増えたことで、欧米でもあらためてこの概念が注目されるようになったということではないでしょうか。

とはいえ日本でも、欧米的思考の導入、特にSNSの普及によって、現代ではtoxic positivityに苦しんでいる人も多いのかもしれませんね。

toxic positivityという概念を知ることで、自分のネガティブな面を受け入れて楽になる人や、他人にポジティブさを押し付けずに寄り添える人が増えたらいいな、と思います。